ミャンマーで現役!国鉄ディーゼル特急キハ181系

2014年GW後半。僕はミャンマーに行くことにした。メインの目的は、急激に民主化が進むミャンマーの「今」を見ること、かの有名な黄金に輝く仏教聖地、シュウェダゴンパゴダとチャイティーヨパゴダ(ゴールデンロックの名で知られる)を見に行くことだったが、数年前にミャンマーに渡った、特急はまかぜで活躍したキハ181系が、チャイティーヨ麓の町チャイトーとヤンゴンを週末にのみ結ぶエアコン付の観光列車、チャイトーエクスプレスとして運用を開始していたことも材料のひとつだった。

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▲2010年 廃止まであと数ヶ月の特急はまかぜ。

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▲余部鉄橋建て替え工事中は、香住駅で折り返し運転。とにかくゆっくりと時間の流れる静かな夏の一日だった。

僕は特急はまかぜ時代に2回乗車をした。あの力強いディーゼルのパワーに魅せられた一人である。果たしてミャンマーでは、どのような第二の生活を送っているのか、とても興味があったのである。

 

僕はエアアジアでクアラルンプールを経由し、ヤンゴンへと向かった。ほとんどの東南アジアの国に、日本人はビザの取得なしで入れるが、ミャンマーはついこの前まで軍が全面的に統治していた、きわめて特殊な国である。パスポートのみでは入国できないため、あらかじめ東京品川のミャンマー大使館にて、観光ビザを取得した。

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▲クアラルンプール国際空港 LCCT

ヤンゴン国際空港での入国手続きは、ビザが必要であることを除けば、ほかの国と特別かわる点は無い。国内随一の空港とは思えない、こじんまりした建物を出ると、東南アジア独特の蒸し暑い気候が迎えてくれる。早速、チャイティーヨに向かうことにする。

 

ヤンゴンからキハ181系で!といきたいところだが、飛行機が到着したのはもう土曜日の正午を回ったころだった。チャイトーエクスプレスはヤンゴン駅を土曜日の早朝に出発。つまり、行きはバスで向かうことになる。タクシーに乗り、近くのバスターミナルまで行くと、現地人に声をかけられ、すぐに乗るべき車両が見つかった。チャイティーヨへのバス(トラック)が発着するキンプンという街まで、7000チャット(約700円)。日本のお下がりとみられる観光バスは快調に飛ばし、約4時間でキンプンに到着した。すぐさまホテルにチェックインし、チャイティーヨパゴダへ向かう。この時移動手段となるトラックはダンプカーの荷台に簡易な椅子を取り付けただけのもので、ヘアピンカーブの続く急勾配をなかなかのスピードで駆け上がる。まるでディズニーランドのビッグサンダーマウンテンに乗っているような感覚で、エキサイティングだ。

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▲キンプンからは日本製のダンプカーの荷台に乗って山頂へ!バスでは登れない坂道をターボを効かせて軽々と登っていく。

もうすぐ日が暮れようとする頃、山頂へと到着した。今にも落ちそうなゴールデンロック。仏のパワーによって、絶妙なバランスをとっているのだという。夕陽が黄金の石を幻想的に色づかせる。そのすぐそばで、信仰の深いミャンマーの人たちが、たくさんの蝋燭と線香をともす。この光景は想像以上に美しく、僕は結局日が暮れるまで、ずっとそこに佇んでいた。

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翌日。ホテルにて正午の出発の時間に備える。カメラの充電を試みるも、なぜか一向にインジケータが点灯しない。どうやら、コンセントの根本から停電しているようだ。仕方がないので少し早目に駅へと向かうことにする。この街ではタクシーというものを一切見ていない。モーターサイにまたがり、チャイトー駅へと向かう。ゆるやかな下り坂が続くのだが、けっこうなスピードが出ており、転んだらどうなることやらと不安に駆られる。無事チャイトー駅に到着したのだが、駅前はまともに舗装されておらず、牛がのどかに歩いている有様。ここが駅だと知らなければ、通り過ぎてしまうかもしれない。

もしかしると、もう181系の姿が見えるかもしれないと思い、駅の待合室を抜け、今にも床が抜けそうな跨線橋をわたってみる。右側の待機線を覗くと・・・いた!キハ181系だ。遠く に停車しているのが見える。ミャンマーの地で、確かにこの目でその雄姿を見ることができた。

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一安心したところで、チケットを買いに行くことにする。鉄格子越しに真っ暗な駅舎の事務室を覗くと、暗がりの中で駅員が中に入って来いと手招きしているのが見えた。それに従い、駅舎の中に入る。やはり中は真っ暗だ。まだ停電しているのかもしれない。12:00発の急行に乗りたいと伝えると、「エアコンだな」と言う。どうやらキハ181系は、現地ではエアコンと呼ばれているらしい。たしかに、これはこの国で唯一のエアコン車両なのである。米ドルを用意したのだが、どうやら2014年の春からミャンマーチャットのみの支払いとなった模様だ。3500チャット(350円程度)と、破格の安さである。懐かしい複写シートを使って直筆で記入された切符を手にする。

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線路を伝って、車両のすぐ近くまで行ってみる。キハ80系の時代から続く伝統のデザインが凛々しい。連結器の踏板の裏には、きちんとキハ181の文字が確認できる。最後尾一両は、塗り替えられたとはいえ、JR時代を彷彿とさせる塗装である。屋根上はミャンマーでの事情に合わせて、空調装置が一段下げられている。このため天井が低くなっているのだが、大掛かりな溶接を伴う改造工事が行われたのだろう。どおりで、譲渡から営業運転まで、長いブランクがあったわけである。側面を見ていくと、東南アジアではおなじみであるステップ取り付け工事がなされている。しかし折り戸式ドアの裾部分は延長されておらず、大きな隙間ができており、じつに大らかな国民性を感じさせる。

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最後尾以外の車両はミャンマービールのラッピング広告がなされている。一見きれいに見えるが、張り合わせが雑であり、ところどころはがれてしまっている形跡もある。そして残念なことに、窓には黒いフィルムが貼られているため、自席からの良好な風景は期待できそうにない。(例外として、車端部の席だけはフィルムが貼られていないが、どちらにせよミャンマーの大地の土埃によって、汚れていた)。ミャンマーの鉄道は準軍事施設に当たるため、写真撮影には特別な許可が必要とのことだったが、特にお咎めなしであった。当ブログでは身の安全に関しては一切保証しないが、少なくとも緊迫した雰囲気は感じなかった。

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これで本日キハ181系に乗れるという確約がとれたところで、少し早い昼食をとることにする。近くの食堂(掘立小屋)でポークカレーとソーダを注文する。腹を壊すのではないかと心配したが、肉厚でやわらかく煮込んだ角煮のような具がうまい。ソーダはミャンマー製の昔懐かしい瓶入の炭酸飲料で、照りつける太陽から逃れたあとで飲むと格別にうまかった。

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そうしたところで、そろそろ出発時間が近づいてきた。ホームに戻ると、ちょうど交換作業を行おうとしているところだった。キハ181は、留置線から本線へと進み、ゆっくりと駅舎のほうへ戻ってきた。もちろんドアは開きっぱなしだ。内数両はエンジンカットがされているが、平坦な大地を低速で走るこの急行にとっては、それで十分な運用なのかもしれない。

列車に乗り込む。いたるところに日本語の表記が残る。十二分に当時の面影を残しているといってよい。キャビンに入ると、懐かしいリクライニングシートが並んでいる。クーラーがキンキンに冷えていて、寒いくらいだ。乗車率は半分くらいであろうか。車両によって、かなりムラがある。

定刻になると、ゆっくりと列車が進み始めた。特にアナウンスは何もない。この先、バゴーまでノンストップで走行する。まさに特別列車の風格だ。この列車は、当然の車内販売などはない。ノンストップということで、売り子も乗ってくる気配がないため、乗車時は必要なものを買い揃えておくのがよいだろう。

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しばらく走行したが、その圧倒的な揺れにはただただ驚くばかり。しかし、これでも他の客車と比べると遥かにいいほうとのことで、きっとサスペンションがいい仕事をしているのだろう。縦揺れというよりは横に大きく揺さぶられる感じで、飲み物などは油断すると床に転げ落ちてしまうほどだ。ミャンマーの保線状況は劣悪の極みであり、タイなどの例とは比較にならない。枕木が等間隔でない、きちんと固定されていない、そして最大の問題はバラストが致命的に足りていないことである。その結果、車輪が通過するたびにレールが歪み、左右の揺れを引き起こす。もはやいつ脱線してもおかしくないレベルであり、ゴールデンロック同様に仏のパワーによって横倒しになっていないだけとしか思えないのである。水田などに突っ込まなければいいが・・・速度は40キロから速くて60キロ程度と予想される。120km/hでの高速運転が得意なキハ181系としてはかなりのろまなダイヤだが、線路の状況がこれゆえ、無理は禁物である。

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のどかな田園風景の中を、ひたすら4時間、ヤンゴンに向けてゆっくりと走る。ほぼ定刻で、途中駅のバゴーに到着。折り戸は本来自動ドアだが、もちろん集中管理ではなく非常用ドアコックにより開け閉めがコントロールされている。また列車は走り始め、田園地帯へ。退屈といってはそれまでかもしれないが、ほとんど同じような風景が淡々と続いている。

車内探検へ出てみよう。車端部のトイレは利用可能。他の列車はすべて垂れ流し式だが、この車両は消毒薬も利いており、循環式処理装置がそのまま生かされている。だが洗面台の水は残念ながら出なかった。壊れているわけではなさそうなので、単に水を入れれば動きそうな状況だ。連結部分の踏板が除去されているので注意されたし。連結幌はきちんと残っており、状態も良好である。デッキ部分は冷房がないため、蒸し暑い。強すぎるエアコンで体が冷え切ってしまった場合は、ここに来るとよいだろう。そして先頭車両キャビンの端には、なんと最終運転日の貴重な寄せ書きまでもが、そのまま残っていた!まさに動態保存である。

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席に戻り、居眠りをしてから1時間以上が経過しただろうか。激しい横揺れに、壁に強く頭を打ち起こされる。鉄道とは思えないような揺れだが、まだ列車はレールの上を走っている。脱線はしていないようだ。太陽が少し傾き始め、周辺の駅にこまめに停車をするようになってきた。ヤンゴンが近いようだ。

ここからはドアを開けたまま走行するようになり、僕も安全を確認したうえで身を乗り出してみる。生ぬるい風だが、心地よい。日本ではできない、貴重な体験である。降りる客も駅を追うごとに多くなってきた。もうターミナルは、すぐそこまできている。しばらく走った後、ドアから顔を出すと、ヤンゴンの駅が見えた。フィナーレを、デッキで過ごす。相変わらずアナウンスはないが、ゆっくりと、無事にヤンゴンへと到着した。列車は客を降ろすと、数分間停車したのちすぐに車庫へと回送される。もちろん、その雄姿を見送ることにした。警笛を鳴らすと、エンジン音を轟かせながら、ゆっくりと走り去っていった。キハ181は、かつてない接客設備が感動を持って受け入れられ、2014年になった今もその設計にふさわしい優等列車として活躍している。遠く離れたミャンマーでも、その輝きは失われていない。

今回の乗車ルポ、いかがだっただろうか。実は僕は、この1年間、営業運転が行われるのを心待ちにしており、現地の状況をずっと調べていたのだ。いつまでたっても営業運転の情報が入ってこず、ずいぶんとやきもきされられたものだが、今回ついに念願が叶うこととなった。ところでこのキハ181系、日本現役時代とはやはり大きく異なる表情を見せる。ひとつはやはり、田園地帯をまったりと走る点。山陰本線の山岳地帯を馬力を生かして力走する姿、また東海道本線の大阪姫路間を、新快速に肩を並べながら猛スピードで走行する姿とは対照的である。もうひとつはキロが連結されていない点。残念ながらミャンマーでは、キロ連結の報告が未だ無い。リクライニングすると座面が持ち上がる、あの素晴らしい乗り心地のシート。旧余部鉄橋廃止間もないころ、山陰本線の香住から乗車したのだが、あまりの気持ちよさに発車するなりすぐに寝入ってしまった。起きたと同時に明石大橋のきらびやかな夜景が目に飛び込んできたあの日が忘れられない。高速で走行する列車の中、深く倒したシートから見えた景色は、あまりにも印象的だった。それ以降、僕はキロには特別な感情を抱き続けている。今はインセイン近くの車両庫に留置されているという話であるが、部品取り用との噂も聞こえる。できることなら、キロを復活させてほしいと願うばかりだ。だがそれを差し引いても、この列車が好きなら遠いミャンマーにも行く価値があるだろう。情報が極めて少ないので、苦労するとは思うが、実際に対面できた時の感動がある。現地に行ってみないとわからない情報もあるが、ヤンゴン環状線を走るスジならば比較的乗りやすい。一度、行ってみてはいかがだろうか。

形式キハ80・181系―あの車両のすべてを徹底解明 (イカロスMOOK―国鉄型車両の系譜シリーズ)
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キハ181系DVD-BOX 特急おき・特急はまかぜ・特急いそかぜ
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国鉄型HD について

国鉄型をこよなく愛する自由人。小型カメラを片手に日本全国どこへでも。

投稿日: 5月 27, 2014 | カテゴリー: 国鉄型乗り鉄記 | パーマリンク 1件のコメント.

  1. 山田 良実

    フジテレビ「めざましテレビ」の山田と申します。
    突然のご連絡で失礼いたします。

    「ミャンマーで現役!国鉄ディーゼル特急キハ181系」
    のページに載っている動画および画像につきまして
    確認したいことがございますので、
    お手数ですが、ご連絡いただければと思います。

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