臨時寝台特急あけぼの号、追憶の彼方へ。上野-青森完全乗車ルポ

寝台特急あけぼの (みんなの鉄道DVDBOOKシリーズ メディアックスMOOK)
寝台特急あけぼの (みんなの鉄道DVDBOOKシリーズ メディアックスMOOK)

寝台特急あけぼのの定期ダイヤが廃止となった。表向きには乗車率の低下が主原因ということにはなっているが、むしろ車両のメンテナンスや運用に労力がかかりすぎる側面が垣間見える。現代の鉄道会社のビジネスという視点で考えると、残念ながら決して大きな収益源ではなくなっている。新幹線で大量の人をバンバン輸送する時代。もはや一日一往復の客車列車をひとつ廃止にしたからといって、JR東日本は痛くも痒くもなさそうだ。しかし、これでまたひとつ、日本の鉄道がつまらないものになってしまった、というのは紛れもない事実だろう。


▲上野〜大宮後面展望。ルポを読みながら、ぜひBGMがわりに再生ください

僕は夜汽車での旅が何よりも好きだから、どこかへ訪問する理由ができるたびに、何かしらの夜行列車に乗れないかといつも考えている。初めて寝台列車に乗ったのは、急行銀河のB寝台。そして北陸、北斗星、きたぐに、富士、あけぼの、はまなす。もうここで書いた半数以上が、もう見ることができない過去の存在となり、残るものも絶滅危惧種。ここ数年以内には、もうすべて廃止されるだろう。消え行くものをただ見て嘆いていても仕方がない。そう思い、最後の乗車を決意すべくあけぼの号のチケットを買った。

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あけぼのは2014年の夏に、臨時列車としてお盆明けまで運転された。定期廃止、臨時化で2〜4シーズン運転した後完全廃止させるのが最近のJRの常套手段だ。「いつかは乗ってみたい」と言っている間に夜行列車はどんどん減って行くだから、思い立ったらまず行動が原則。

僕はすでにあけぼのには2回乗ったことがある。一度は弘前から上野、その次は上野から秋田まで。しかしいずれも区間乗車だったので、臨時化して完全廃止まで(おそらく)秒読み段階に入った今、最後のあけぼの乗車として悔いがないよう、上野〜青森完乗、しかも正統派の開放型B寝台で旅行を決意した。(実は本当の目的地は通り越してしまうのだが・・・)

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臨時化で減車され、A寝台もなくいささか寂しい編成となってしまったが、好都合なことがひとつだけあった。それは定期時代は最後部がレディースカーで、後方展望は女性のみの特権(?)だったのだが、臨時化で普通の寝台車となり、誰でも流れ行く景色を眺めることができるようになった。そして奇遇にも予約可能な寝台は最後尾の1号車。これはツイている!これで新清水トンネルのモグラ駅、土合の通過をこの目で眺めようと思ったのだった。

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▲ひと目見ようとホームに訪れるファンと、警戒にあたるガードマン

夏休みの夜。上野駅へキャリーケースをひいてやってきた。まだ廃止が囁かれなかった頃は、ファンが数人発車を見送るくらいだったが、今はものすごい人出だ。みなカメラを構え、列車の到着を待っている。ホームには危険防止のためロープがはられ、撮影できるスペースも限られている。時間に余裕を見て準備しておかないと、良いポジションにはありつけなさそうだ。僕が好きなのは、ありのままの日常なので、こういう雰囲気は少し落ち着かない。

入線時の映像はあまりいいものが撮れなかったので、おまけとして定期時代の最後の夏に撮った映像も一緒に載せておこうと思う。ブルーの古めかしい車体が、ゆっくりとバックで入線してくる。もうこの貴重シーンが見れるのは、あと何回だろうか。ファンには嬉しい旧態依然のオペレーション。

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所定の位置で、しっかりと停車をすると、長旅を連想させる折戸があき、車内へといざなわれる。国鉄型独特の匂いが、お出迎えだ。クルーは後方のドアを閉めて、ロックをかける。発車時は、ここにしばしおじゃまさせていただくことにする。

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▲推進運転で入線したあと、すぐに後ろの扉はロックされる

長い発車ベルがなり終えると、客車特有の大きな振動とともに列車は動き出す。ついに旅の始まりだ。列車後方からの展望は、上野からの発車では初めて体験する。思えば、ここは普段よく乗るルートであり、なんとも思わないような場所であるはずなのに、ひと味もふた味も違う風情を醸し出している。さまざまな列車がすれ違い、夜景が飛んでいき、ずっと見ていても全く飽きることなどない。

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▲独特の味わいのある折りたたみ椅子

列車は大宮を出ると、快調に高崎線を飛ばす。車内はほぼ満席だが、驚くほど静かだ。レールの音だけが、クリアに聞こえてくる。皆走行音に耳を傾けているのかもしれない。

午前0:19。列車は水上駅に運転停車をする。水上は年1〜2度必ず訪れる好きな町のひとつ。電車でも、車で来てもいい表情を見せてくれる。特に夏の花火大会は最高だ。残念ながら今年はあけぼのに乗っているから、見ることはできないが・・・

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▲1号車のデッキ。折戸の凹凸が経年を物語る

水上を発車すると、新清水トンネルへ入る。当然かぶりつきの目的は、トンネル駅として特異な存在の湯檜曽、土合。この少し不気味でスリリングな2つの駅を、深夜高速の列車で通過するとどんな気分なのか、非常に興味があったのだった。

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▲後面から過ぎ去る湯檜曽駅はアーティスティック

長く暗いトンネルの途中、はっと明るくなったと思うと湯檜曽駅だ。土合と比べるとそこまでメジャーとは言えないが、過去に通りかかり、ホームで列車を見送ったこともある。トンネル内の駅部分がゆるやかにカーブしているため、実にいい雰囲気を醸し出している。暗闇の中、ゆるやかに弧を描くレールの光が美しい。シャッターを切ると、スピード感があふれる写真が自然に撮れた。一瞬で光は遠く向こうへ去っていく。もしあけぼのが走るチャンスがあるのならば、ぜひ一度湯檜曽駅で通り過ぎるあけぼの号の勇姿を見てみたい。そして数分後、土合へ。

さきほどの湯檜曽駅もなかなかディープな雰囲気だったが、深夜の撮影でも恐怖感を覚えることはないはずだ。一方でこちらの土合駅は、まさしくホラー。誰もいない山小屋のような暗い駅舎をとおり、水の流れる音を聞きながら暗い川の上わたると、ものすごい風とともに現れる先の見えない下りトンネル。湿気の多い階段を、染み出す地下水の流れる方向へひたすら下ると、土合駅下りホームだ。行ったことがない人でも、バイオハザードに出てきてもおかしくないロケーションと聞くと、なんとなく想像できるのではないだろうか。夏の肝試しに、強くおすすめしたい。

等間隔に並んだ蛍光灯が、靄を照らしている。まるで映画のワンシーンのような演出。その怪しい施設を、轟音とともにあけぼの号が通り過ぎる。その間十数秒。やっぱり、新清水トンネルは面白い。その後も、長い長いトンネルを走り続ける。非常用の電話のある退避抗が何百mおきに飛び込んでくる。普段使われることは限りなくゼロに近いと思われるが、このような長大トンネルを安全に保守していくための施設がきちんと整備されていることが興味深い。

ついにトンネルを抜け、越後湯沢へ。

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▲折戸のデッキ。LEDでは絶対に演出できない、レトロな温もり。

深夜の車内探索に出た。車内は寝静まっているため、そっと行動する。5号車を除いてB寝台。各車両にトイレと洗面台が2つずつ備え付けられている。紙コップの冷水機も健在。5号車のソロはお気に入りの車輌。これまでの2回の乗車は、いずれもソロ1階山側であった。人気が高いため、席を選ぶこと用意ではなかったが、一度日本海側の2階席に乗車してみたかった。

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▲冷水機。人が歩いている時間帯はひっきりなしに利用されていた。

6号車は車端部で電源車カニと接続するが、手前の貫通扉がロックされており中へ進むことはできない。ここで折り返しとなる。自席に戻り、しばらく眠りにつくことにした。

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▲今日の宿、B寝台下段

***

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午前4時、ふと、目が覚めた。

外が少しずつ明るくなっているのが見えた。夜行列車でしか味わえない楽しみの一つは、朝焼けを見ることである。起き上がり、通路側の折りたたみ椅子に腰掛け、車窓を眺める。新潟県はまるで絵画だ。左は日本海、右は緑美しい山の絶景が続く。どんな夜行列車でも、この夜が明けるひとときがたまらない。日常で過ごすどんな朝よりもすがすがしく、ひときわ輝いている。

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▲4:56AM、村上駅に到着。湘南色の編成がホームで待っていた。首都圏で姿を見なくなって数年が過ぎ、懐かしさがこみ上げる。

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陽は昇り、酒田に到着。ここでは数分間停車する。機関車の方にはギャラリーが群がっているようだ。秋田県に入り、雨が降ってきた。結構強く降っているので、後方の展望が難しい。そのためビデオは撮っていない。五能線は区間運休となってしまっているが、列車は定刻で走行。雨が降る景色を眺めながら、このブログを執筆する。

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青森県に入る。正規のダイヤだと青森に9:55についている頃であるが、臨時列車はなぜか今東能代付近を走行中である。どこで道草を食っているんだろうか。大館で乗ってきた3人家族がいた。寝台券を買っているようである。小さい息子へのプレゼントなのかもしれない。昔は空き寝台を利用したヒルネと呼ばれる自由席サービスがあったが、今はもう実施されていない。定期列車廃止と同時に、ヒルネ制度は絶滅してしまった。

乗車時間はあと1時間程度となった。緑が多い地域をひた走る。時折トンネルに入る前に、遠くの機関車からホイッスルが聞こえる。次々と機関者牽引の旅客列車が消えようとしている今、僕はあと何回客車のキャビンからこのホイッスルを聞くことができるのだろうか。大鰐温泉に到着。次は弘前、新青森、終点青森を残すのみ。ついにラストスパートへ入ろうとしている。

再び最後部へ。新青森手前で臨時停車。そして新青森、大きくカーブして青森でフィニッシュ。15時間もの長旅が終わった。青森駅のホームに降り立つ。東京では連日30度を超えているというのに、青森では少し肌寒い。ホットコーヒーが恋しくなる。

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雨が降りしきる中、DE10での回送を見送る。機回しをして20分以上経っただろうか。ついに汽笛を鳴らして、車庫へと戻っていった。定期列車では信じられない程のギャラリーが、ここにもいた。全員が、この姿が見れるのはあとわずかな時間だと理解しているのだろう。

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僕にとっても、おそらくこれが最後のあけぼの乗車となるだろう。〆にふさわしい、濃密な時間を過ごすことができた。さようなら、あけぼの。またどこかで、会うことができるだろうか。

完全保存版! 寝台特急〔あけぼの〕メモリアル ~「JTB時刻表」で振り返る〔あけぼの〕の歴史~ 電子書籍オリジナル
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国鉄型HD について

国鉄型をこよなく愛する自由人。小型カメラを片手に日本全国どこへでも。

投稿日: 8月 24, 2014 | カテゴリー: 国鉄型乗り鉄記 | パーマリンク コメントする.

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