至高の休日、台湾の客レ「普快車」で過ごす土曜日

台湾鉄道の旅 完全ガイド 初めてでも気軽に楽しめる! 新幹線から懐かしの旧型客車まで (イカロス・ムック)
台湾鉄道の旅 完全ガイド 初めてでも気軽に楽しめる! 新幹線から懐かしの旧型客車まで (イカロス・ムック)

偶然にも、仕事でとあるスタートアッププロジェクトに携わることになり、台湾を初めて訪れることとなった。20カ国目の記念すべき海外旅行(出張)となる。帰国日の日程が選べる自由があったので、迷わず平日に羽田から飛び、数日仕事をした後に日曜日の夜に日本に帰国するスケジュールを組み、土日をまるまるプライベートに使えるようにした。

そこで思いついたのは、もはや台湾でも風前の灯と聞いていた客レ列車、「普快車」に乗ろうということだった。台湾の台東線で一日一往復だけ運用される「普快車」は、日本の古き良き国鉄時代を彷彿とさせる貴重な列車として有名だ。この客車は日本製で、国鉄時代の旧型客車をベースに設計されたものだ。台北からは遠いが、金曜日の夜に新幹線で高雄へ。そこで一泊し、普快車で台東まで行ってからまた戻ってこようと思った。

しかしどうしたことか。仕事が終わり、金曜の最終便で高雄に辿り着いたあと、翌日早起きしてまで台東まで行く気力が無いことに気づいた。疲れていたのだった。それに高雄もいいところだと聞いていたから、その街をゆっくり観光したい気持ちもあった。本物の旧客だって、まだその気になれば日本でも乗れるし、台湾での貴重な時間を移動に費やすのももったいない・・・という思いが強くなり始めた。

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高雄・美麗島駅の有名なステンドグラス。アートの街である。

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▲美麗島駅とその周辺のナイトマーケット。

そんなわけで、もう普快車に乗ることは半ば諦め、高雄のホテルを遅い時間にチェックアウトしたあと、高雄観光に出かけたのだった。行き先は芸術特区。もう使われなくなった港の倉庫を活用して、現代アートの展示を行っているという。早速地下鉄に乗り、最寄りの駅で降り、まだ暑さの残る高雄の街を歩き、たどり着いた。

台東線を半ば諦めて行った芸術特区はどうだったのか。正直に言おう。いまひとつだった。

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期待しすぎていた、というのが本当のところかもしれない。見応えがあるものもあるが、展示物がピンキリで、少し物足りなさを感じた。僕は照りつける太陽に早々にギブアップし、併設されたレストランに逃げ込んでしまった。そこで冷たいレモンソーダとともに昼食をとりながら、これからどうしようかと考えた。台東線の夕方の帰りの便に乗るべきか?答えが見つからない。

結局モヤモヤしたまま、隣の地下鉄駅「西子湾駅」まで歩くことにした。使われなくなった貨物ヤードを活用して公園にしたエリアを通る。意外にも遠くに静態保存されている日本製の機関車が見える。近づいてみて初めてその全貌が見えてきた。ここは打狗鐵道故事館という、鉄道博物館だったのだ。その中には、普快車に使われている日本製の客車も、引退してその場に佇んでいる。

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そんな車両たちを眺めていて思った。せっかくここまで来たのだ。これは無理をしてでも、普快車に乗るべきだと。頭のスイッチが切り替わった。

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急いで地下鉄に乗り、高尾駅の自動券売機で台東行きの自強号のチケットを買った。普快車の復路便の始発駅は台東だが、もはやそこには間に合わない。途中駅の金崙( Jinlun)で、普快車に乗って折り返すことにした。

金崙は海辺にあるとても小さい駅だった。このへんでは温泉が出るらしいが、降車客は僕しかいない。外国人は珍しいらしく、駅員は中国語が話せないとわかるとどこから来たのか聞いてきた。
「日本から来た」
「この街にはどのくらいいるつもりか?」
「次の列車で折り返す」
「今来たばっかりじゃないか」
驚いた表情で冗談だろう、と言う。しかし本当なのだ。単に写真を撮りに来たんだよ、などと意味不明な理由を告げながら、普快車のチケットを窓口で買う。
「普快車?乗りたいのはその次の自強号だろう?」
「次の普快車だ」
「いやいや、きっと乗りたいのはこっちの自強号だろう」
「普快車でいい」
こんなやりとりが続いた末に、普快車のチケットが発券された。
もはや台鉄関係者も、普快車は外国人が乗るはずがないと決めつけている。それもそのはず。台鉄では現存する最下層の列車種別だからである。

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しばらくホームで待つ。定刻通り、青い3両の客車をこれまたいかめしい機関車2両が引き連れホームにゆっくりと入線する。前情報どおり、インド製と日本製の客車だ。日本製の旧客は2両だ。ラッキーかもしれない。本当に古めかしく、これはいつ無くなってもおかしくないと感じた。

手動のドアを開ける。地元の中学生くらいの女の子が数人降りたあと、車内に乗り込んだ。暗い車内、整然と並んだボックスシート、開けっぱなしの窓、両手で数えられるほどの乗客。異世界に飛び込んだ、と思った。列車は2〜3分停車した後、走り始めた。最後尾の貫通路は開けっ放し。ひたすら、もうすぐ日が暮れそうな海沿いの路線を走る。前を走る機関車のエンジン音、そしてレールの音以外、何も聞こえない。まさに昭和の汽車旅のその世界観が、この地で再現されている。かつて山陰本線を走る客車列車は、こんな感じだったのだろうか。

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ひたすら、何にも邪魔されない、静かな時間が過ぎていく。ただ窓の外の、消え行く太陽の光を見つめるだけのひととき。目を閉じてシートに沈んだ。夏の終わり、心地よい海風が車内に入ってくる。やがて黄昏れ、暗闇になり、そして窓の外を見ると、ゆるくカーブした前方で引っ張る機関車の姿がぼんやりと見えた。今、とてつもなく価値のある時間を過ごしている。

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台湾東部の海沿いの景色は、静かで、綺麗で、とても落ち着く場所だと感じさせた。暗闇の中、並行する国道を走る車のヘッドライトだけが見える。しばらくすると、小さな町が見え、列車が停まったあと、また走り出し、再び暗闇へ。

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途中駅から乗った普快車。その期待値を大幅に上回るその乗車体験は、昭和の汽車旅に思いを馳せているファンの皆さんに大いにおすすめしたいものである。19時半を回った頃、10分遅れで枋寮駅(Fangliao)に到着。乗客が降りると、すぐさまに回送が始まり、駅をあとにして行った。DSC04784

客レの余韻を楽しみながら高雄へ。そのまま同日のうちに台北へ向かった。明日はいよいよ帰国の途につく。一度は諦めかけた旧客への乗車。しかし、乗る価値があったと断言できる。今日は近年稀に見る充実した土曜日だった。

台湾鉄道の旅 完璧ガイド (イカロス・ムック)
台湾鉄道の旅 完璧ガイド (イカロス・ムック)

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国鉄型HD について

国鉄型をこよなく愛する自由人。小型カメラを片手に日本全国どこへでも。

投稿日: 12月 28, 2014 | カテゴリー: 国鉄型乗り鉄記 | パーマリンク コメントする.

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