急行はまなすに、気が済むまで乗車する

寝台特急が廃止されるたびに、「一度は乗ってみたかったよねぇ」という声が聞こえてくる。不可抗力で乗れなかったのか、それとも単にプライオリティが高くなかったかは定かではないが、後々惜しむことになるのであれば、多少無理して予定を作ってでも、乗りに行く行動力が大切だ。それに、「一度は」ではなく、「二度でも三度でも」気が済むまで乗ればいいと思う。

「急行はまなす」は、北海道新幹線開業の裏で姿を消した。これぞ汽車旅という雰囲気を残す最後の大変貴重な急行列車だった。以前も一度乗車したことがあったけれど、僕は廃止前に「はまなす」を乗り納めすることを主目的にしつつ、北海道に行く旅程を組んだ。

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青森駅から札幌駅までB寝台を選んだ。行きも帰りも満員御礼。指定席も寝台も、すべて埋まっていた。1号車と2号車の間に、21号車というとんでもないナンバリングの車両が増結されていた。きれいに塗り直されている車体もあるが、ごく一部。ほとんどの車両は全体的に退色し、ひどく傷んでいる。きちんとメンテナンスしたほうがいいのではと可哀想になってくるが、これでいいのだ。ステンレスでギラついた都会とは真逆の、ノスタルジックな世界へと誘ってくれる。寝台車の廊下側に設置されている折りたたみ椅子に座りながら、ハイケンスのセレナーデに続く車掌の声を注意深く聞いた。

青森を出たあとは、函館0:44、長万部3:07…

通常の生活時間帯とはかけ離れた時刻を聞くたびに、はまなすがこの時代まで残ってくれたありがたみを感じた。ほどなく、列車は青函トンネルへと入る。青函トンネルの中に無数に設置された蛍光灯の光が、どんどん後方へと飛んで行く。もう列車は深夜帯を迎え、ほとんどの乗客は眠りについていた。僕は乗客の眠りを妨げないように注意を払いながら、車内を探索することにした。

自由席は、全体的にけだるい雰囲気に包まれていた。簡易リクライニングシートは眠るポジションを見つけるのに苦労するが、持参のアイマスクと枕を使う者、二席を使って横になる者、席を反転させて眠る者など、思い思いの寝相で目的地を目指す。欧米から来たバックパッカーも、フリー乗車券を活用してこの車両に乗り込んでいた。

指定席は簡易リクライニングシートとドリームカー仕様のソファ席があるが、どちらに当たるかで明暗が分かれる。ソファ席は確かに快適だ。車内は減光され、いよいよ夜汽車の雰囲気を演出する。者端部にはミニロビーが設置されており、鉄道ファンと思われるグループ客が談笑している。

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開放型B寝台は、居合わせた人との社交場になることも多い。以前北斗星に乗車したときは、下段にいた大学生の子と、挨拶がてら一緒にワインを飲みながらお互いの旅の計画を語った思い出もあったが、この日は発車前からとにかくひっそりとしていた。「はまなす」は出発時間が遅い上、楽しい長旅というよりも、出張や帰省など、生活のための列車という性格が強い。車両に一人窓の外を見つめる人がいる程度で、ひとりとして話しているものはいなかった。

青函トンネルを抜けてしばらくすると、函館駅に静かに滑りこんだ。ここでは長い運転停車が発生する。たくさんの乗客がホームへと降り、機関車の交換作業に熱い視線を送っている。もう深夜だというのに、駅は昼よりもにぎやかだった。新幹線が開通したあと、この活気に満ち溢れたプラットフォームは、ウソのように静まり返ることになるだろう。そう思うと、やはり少しさびしい気持ちになる。編成を先端から末端まで見たあと、またベッドに戻り、眠りについた。そこからは、心地よい音と振動がリラックスさせてくれたのか、札幌駅到着直前になるまで、ずっと眠りの世界に入っていた。

翌06:07、定刻に札幌駅到着。ここでは車両をバックに記念撮影をする親子が目立った。きっと小さな男の子にとって寝台車は秘密基地のようなメカニカルな空間で、いい思い出になっただろうと思う。

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結局僕は、その後も復路でB寝台に乗車した。そして2016年の年始にも懲りずに「函館旅行」をでっちあげ、奥さんと自由席に乗車した。きっと素人目にはただのボロい列車と思われるんだろうと思っていたが、奥さんはなぜか直前に乗った新青森からの701系で青函トンネルを乗り越えると勘違いしていたようで、はまなすはとても快適で楽しい列車だったと、意外な反応を示した。函館駅では、新幹線開業までの日数がLEDに表示されていた。これは同時に、急行消滅までのカウントダウンとほぼイコールでもあった。僕は計4回、はまなすに乗車するチャンスに恵まれた。十分楽しんだけれど、やっぱりこの先もずっと無くなってほしくないという気持ちが本音だ。新幹線開通という廃止理由にちょっとしたわだかまりを感じながら、それでも最後の最後まで残った偉大な急行列車を、僕は心のなかで拍手をしながら見送った。

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国鉄型HD について

国鉄型をこよなく愛する自由人。小型カメラを片手に日本全国どこへでも。

投稿日: 5月 8, 2016 | カテゴリー: 国鉄型乗り鉄記 | パーマリンク コメントする.

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